スマートフォンやPCブラウザ等で展開される無料+課金スタイルのゲーム。美少女ゲーム系でも、そのスタイルで展開されるタイトルは増えてきたが、いわゆるAVG系ジャンルの数は多くない。そんな中、2015年に設立されたfavaryでは女性向けAVGを着実にヒットさせ、最新作『初恋シグナル』では“男女”“男男”“女女”と多様な組み合わせで楽しめる作品を提供。物語も「セカンドシーズン」が公開され、ヒット商品となっている。成熟し、難しい状況になっていると思われるスマートフォン市場で成功した要因は何か。ブランド代表の牧野氏、ディレクターの矢田氏にお話を伺っていく。

「マルチカップリングゲーム」はどのようにして生まれたのか

企画/原案/制作:favary
シナリオ:favary/サクシード株式会社
キャラクターデザイン/原画:小島きいち
プラットフォーム
GooglePlay / AppStore / Ameba / GREE / mixi / BLobby


男子×女子、男子×男子、女子×女子――

ひとつのアプリで様々な恋が楽しめる「マルチカップリングゲーム」。
 
メイン登場人物は四人。
脱力マイペース・永峰あさひ、腹黒ムードメーカー・加賀谷ソウ、
まっすぐピュア・森若ちとせ、毒舌クール・藤枝アキラ。
 
男子×女子、男子×男子、女子×女子――
高校2年生に進級した春、4人の男女が出会い、
そこで芽吹いていく色んなかたちの「初恋」。
 
走り出したら止まらない、「初恋」のゆくえは――。
 
昨年12月にリリースされた本作、現在はセカンドシーズンが展開中。

小規模でも自分たちが作りたいものを


―――会社設立の経緯をお願いいたします。

牧野(敬称略/以下同):設立したのは2015年9月になりますね。それまでは二人とも女性向けゲームを制作する会社に所属していて、そこから独立した形になります。私と矢田がその会社で一緒にやっていたのは2~3年間くらいでしょうか。私はゲーム内容というよりは、レベルデザインやデータ分析、マーケティングアライアンスといった部分を担当しています。

矢田(敬称略/以下同):私はその会社の前にも、別の会社で女性向けゲームを制作してきました。ただ会社として成功すると確実に利益に繋がる手法と言いますか、企画者個人のアイディアを元にした作品は作りにくくなってしまって。似たような企画で、女性向け市場で売れている作品ジャンルを隅から一つずつ埋めていくような作り方になったんですね。そのやり方もアリなのですが、続けていくとやはり挑戦しがいがないと感じてしまったんです。

―――私自身、女性向けゲームの書籍を作ったときに感じたのですが、男性向けは“人妻”とか“巨乳”といったわかりやすいワードでまとめることができるのに比べ、女性向けは細かくて難しいなと。そういう作り方をしていくことで多様なニーズに対応されるのですね。

矢田:次の会社でも最初は違ったのですが、また似たような流れになってしまって……。小規模でもいいから自分の作りたいものを作りたいと考え、独立することを決めました。お話されましたように、女性のニーズってとても細かくて、満たされていないユーザーはたくさんあるんです。需要が多いニーズは大手に揃っているから、それ以外のものを制作し続けている体制を考え、設立しました。

―――ということは会社の規模も小さめですか?

牧野:我々二人を中心に、数人が関わっている感じです。

―――美少女ゲームメーカーでも小規模の会社は少なくないのですが、スマホアプリでもそういったやり方は可能なんですね。

デビュー作から海外展開


―――それでは御社のこれまでの作品について伺いしたいと思います。

矢田:一作目は『False Vows,True Love~in a night full of lies~』。これは男女の恋愛ものですね。

―――この作品を見て驚いたのは英語版とフランス語版があって、日本語版がないことです。デビュー作が海外向けになった経緯をお聞かせください。

牧野:自分たちの強みは色々な女性の好みに合わせたゲームを制作できること。ただ、普通に売ろうと思っても、大手さんとは勝負になりません。どうやって売っていくのが良いかを検討したとき、ちょうど欧州で女性向けの市場が生まれ始めていたんですね。3000万円くらい売れるアプリが出始めていて、口コミでも少しずつ広まっていく、市場成長の期待感がありました。我々の強みである多様な女性向けコンテンツを制作できること、それを海外展開に活かそうと考えた訳です。
 

―――いきなり海外展開というのは珍しい気がします。ただ、恋愛観などは国ごとに異なることも多いと思うのですが、その点は大丈夫だったんでしょうか。

矢田:先ほどお話した3000万売れたタイトルは屈強な白人男性が揃っていて、しかも顎が割れていて……といった、流石に我々には作れない内容でした(笑)。ただ、アニメ等を通して日本の文化に慣れている人も少なくないんですね。まず、そういった人たちに魅力を感じて頂きやすいように、『False Vows,True Love』ではレトロな日本の雰囲気を楽しんで頂ける、大正時代を舞台にしました。二作目『徒花の契り』は江戸時代ですね。和装も向こうでは人気があるので。
牧野:本作への感想でも「Beautiful」という声は多いんですよ。

―――『徒花の契り』は海外版だけでなく日本語版もあるんですね。少し美少女ゲームの話になりますけど、以前「GamHeadline」では海外展開の特集を組んだことがあります。その際、問題になったのは翻訳のクオリティでした。その点については、苦労された点はありましたでしょうか?

牧野:女性向け作品の翻訳を得意している会社に依頼しています。細かな表現とか難しいところも任せておける会社ですね。
矢田:大手メーカーのアプリの翻訳もずっと手掛けている会社で、そのノウハウの積み重ねがあるんです。その会社を紹介してもらって、という流れです。

ニッチ需要の掘り起こしも視野に


―――それでは最新作『初恋シグナル』についてお聞かせください。男女、様々な組み合わせが楽しめる企画はどのような流れで生まれたのでしょうか。

矢田:私自身、男女の恋愛ものを多く制作してきたのですが、BL(ボーイズラブ)やGL(ガールズラブ)も好きなんですね。『徒花の契り』はBLだったので次はGLを、と考えたのですが、BLに比べて市場は小さい。一方で男女ものは相変わらず強いジャンルなので、だったら全てを合わせたものを作れば会社としても新しいものを作れるし、ニッチな需要も掘り起こせるのではないかと考えたんです。

―――キャラクターは共通ですが、三つの異なるジャンルを作るというのは大変ですよね?

矢田:それぞれに全く違う脳が必要になるので大変です(笑)。その組み合わせならではのトキメキやシチュエーションを考えないといけないので、どうしても時間はかかりました。

―――三つありますけど、人気のあるジャンルはどれでしょうか?

矢田:一番はBLですね。

―――それは前作がBLというのもあるのでしょうか。

矢田:いえ、ユーザーの重なりは少ないです。昨年12月にリリースしたのですが、色んな組み合わせが楽しめるゲームがある、というのがツイッター等で話題になって、そこから入ってきてくださったユーザーが多いんです。

―――ユーザー層はどんな感じでしょう。

矢田:ほとんど女性ですね。プレイ人数でいえば男女ものが一番多いんです。ところが熱量と言いますか課金が多いのはBL・GL。レビューやツイッター等の反応を見てもそっちばかりです。単体でとなるとまだ難しいかなという気もしますが、GLへの手応えも感じました。

―――本作の海外展開はないのでしょうか。

矢田:予定はないですけど、いつかはやりたいと考えています。海外でもダウンロードは可能なので、日本語のままプレイされている方もいるようです。翻訳させてください、という話もたまにありますね。

ユーザーが損をしたと思わないように


―――春からセカンドシーズンが展開されている『初恋シグナル』ですが、今後の予定はいかがでしょうか。

矢田:セカンドの反応も上々です。続けていくかは、これからも応援いただけますと……というところでしょうか(笑)。『徒花の契り』の方も新しいシナリオは配信していて、しばらくはこの2本を進めていくことになりますね。

―――現状、ユーザー数はどれくらいいるのでしょうか。

牧野:市場拡大に合わせてコンスタントに増えています。最初の『False Vows,True Love』が50万人を越えていて、2作目の『徒花の契り』が約30万。『初恋シグナル』まで合わせて100万人を超えています。

―――美少女ゲームでもそうだったのですが無料+課金型AVGの場合、マネタイズの難しさがありました。その点はどのように対応されているのでしょうか。

牧野:無課金の方が8割ですが、ツイッター等で拡散してくれて、それがきっかけで入ってくるユーザーもいるのでありがたいなと思っています。課金の仕組みについては、AVGの売りは物語になりますので、良いところで区切って続きが気になるように、とは常に意識しています。すぐに読みたい人はアイテムを使用してもらって、アイテムを使用しない場合は時間を置いて待って頂く、という形ですね。あとサイドストーリー等でガチャの仕組みはありますが、何が出ても当たりと思ってもらえるように作っています。また、ダブリをなくして回した分だけ新しいシナリオが揃えられるよう、ユーザーさんに損をしたと思われないようにと配慮しています。

―――なかなか難しいポイントですよね。今、女性向けのAVG制作している会社って何社くらいあるのでしょうか。

牧野:勢いのある時期は100社以上あったと思いますが、今は20社くらいでしょうか。恋愛ゲームの数は減っています。
矢田:AVGが主軸じゃないのが増えています。やっぱり売上でいうと、魅力的なキャラクターを作って、それがほしくてガチャを回す……というものが目立ってくる。そのために魅力的なキャラクターを多数揃えて声優もつけて、となるとコストもどんどん上がっていくので、大手メーカー以外はリスクのある勝負になってしまいます。しかも開発期間も伸びて、例えば1年後にリリースしたときはトレンドが変化している場合もあるとなると、小さい会社が勝負するのは、まず無理だなと。

―――どの業界も似たような話になりますね(笑)。

矢田:AVGだとまだ安価での制作が可能なので、やれている部分はありますね。

―――美少女ゲームではパッケージ市場が厳しくなっていくなか、ダウンロード販売やソーシャル系に展開する動きが出ていますが、まだまだ課題がある状況です。御社のようにスマホ恋愛AVGを国内だけでなく海外でも成功させていることは、とても興味深い展開だと思いました。本日は色々とお話を伺いさせていただき、ありがとうございました。