もともとはミュージシャンとしてデビューしながら、今は音響制作や声優・タレント事務所として活動するロックンバナナグループを率いる沢田昌孝氏。先週掲載した「前編」では、美少女ゲームにかかわるまでの話を中心に、「鼓膜を振動させて伝えるものだったら何でもやる」という哲学を語っていただいた。今回の「後編」では美少女ゲームのお仕事について、より詳しく語っていただいた。

1989年 ロックンバナナ設立
2005年 声優事務所イエローテイル独立
2012年 タレント、アーティスト事務所の
    ロックンバナナアーティスト設立

収録スタジオのコンディションの統一感にもこだわる音作り

―――そんなロックンバナナグループですが、そもそも美少女ゲームとの接点はどこだったのでしょう?

沢田:最初はF&Cさんですね(1999年頃)。ゲーム音声を作れないか、というご相談をいただきまして、それが最初ですね。PCゲームはここから広がっていくぞって感じはありました。当時はパソコンを持っている人も少なかったですが、今後もっと普及すると思っていましたし。

―――なるほど。

沢田:それと、やるんだったら旗振り役になりたい。みんなを引っ張っていきたいと常に考えているんです。その中で、パソコンゲームの音作りに関してもやれているんじゃないかな、とは思っています。最近はスマートフォンでのゲームも増えていますし、VRも注目されていますよね。そんな中で音屋としてどうやって行くのかを考えていかないといけないなって思っています。

―――新しいもの好きだからこそできる旗振り役ということですね。

沢田:そうですね。例えばバイノーラル・マイクも早くから研究していたんですが、実はあのマイクで音声を録音するときに、ちゃんと距離感を感じさせるためには広いスタジオが必要なんです。狭いスタジオで録音した場合、臨場感を出すために加工が必要になるんです。それで意を決して20畳のスタジオを作りました。やはり音色は全然違いますね。

―――お話をちょっと戻しますが、スペックなどの問題で当初は音声の再現も難しかったパソコンゲームですが、その後、メディアやパソコンスペックの向上などもあって、かなり環境が変わったと思いますが。

沢田:やはりWindows95が出てきて、CD-ROMが主要メディアになってからですね。大革命だったと思います。16bit44kという音楽CDと同じ音質で提供できるようになったわけじゃないですか。これでやっと市民権を得られるレベルになったと思いました。声優さんの細かい演技も、音が悪いと再現できませんからね。CD-ROMで提供できるようになって、お芝居の表現もより細かく伝わるようになりましたし、結果的に求められるものも多くなりましたよね。

―――その後、メディアがCD-ROMからDVD-ROMになり、シナリオ容量も大きくなるなど、声優さんのお仕事も増えてきていると思います。そのあたりの変化はいかがですか?

沢田:事務所のスペースが必要になりましたね。台本を置く場所が大変なんですよ。収録前はもちろんですが、収録後もすぐに廃棄はできませんから。そして処理するにも専門業者を頼まなければいけないでしょう。そういう一連の作業が大変なんです。ただ、やはり台本は紙なんですよね。収録時に書き込みすることもありますし。そこは仕方がないのかなと割り切っています。

―――音声収録が増えて、スタジオのやりくりなども大変なのではありませんか? 言いにくいかもしれませんが、シナリオの遅れで収録スケジュールがずれたりもするでしょうし。

沢田:それはまあ(笑)。シナリオが上がらないと収録のしようがありませんからね。弊社には複数スタジオがあるんですが、それぞれスケジュールをパズルのように入れ替えています。なのでナレーション収録用のスタジオは、すべてコンディションを一定にするようにスタジオ設計からマイクなどの機材まで計算しています。微調整はもちろんしますが、よほどシビアな耳で聞かないと差が出ないようになっていると思いますよ。もちろんそれでも同じ作品の音声は同じスタジオで行なえるようにスケジュール調整していますが。
 

ゲームユーザーの気持ちに寄り添った主題歌と演技へのこだわり

―――ゲーム主題歌に関しましても早くから取り組まれていますよね。人気のアーティストも輩出されています。歌手のプロデュースにこだわりはあるのでしょうか。

沢田:基本的にゲーム主題歌を歌ってもらうわけですから、聴く人も音楽ファンというよりゲームファン、声優ファンという人が多いわけですよね。ならばアーティスト然とした歌い方よりも、ゲーム主題歌ならではの歌い方があると思っています。そういう部分は意識してプロデュースするようにはしていますね。ウチでは歌手だけでなく、声優も歌うことが多いですし、養成所のEEAでも声優も歌えるように頑張ってもらっています。

―――確かにロックンバナナさんの声優さんは、歌える方が多い印象があります。

沢田:やはり餅は餅屋と言いますか、「歌えます」という声優でも歌手のレベルとは違います。それでもちょっとしたヒントを与えてあげるだけで表現が格段に良くなるんですね。やはり演技をやっている人たちは勘所がいいと言いますか。例えば「なんでなの」という歌いだしの音程がうまく取れない時に、「な」の子音ではなく母音の「a」で音程を取ってごらん、とアドバイスするだけで歌えるようになるんですね。歌手はそれが最初からできるんだよって教えてあげるわけですね。もちろん歌の表現はもっと深いものがあるわけですが、まずはそういったところを指導しながら歌えるようになってもらっています。

―――ゲームならではのこだわりと言いますか、J-POPや歌謡曲とはアプローチが違っているんですね。

沢田:ゲーム主題歌の魅力のひとつは、プレイし終わった後に聴いた時に伝わるものがあることだと思うんですね。それはJ-POPのようにテレビやラジオから不特定多数に流れて感動させるのとは意味が違うと思うんです。もっとユーザーと1対1というか。より狭い範囲で聴いてもらう音楽なんじゃないかな、と。僕がよく言うのは、「自分がこういうアーティストになりたいです、というのは捨ててくれ」ということ。「人のために歌ってくれ」「人のために演じてくれ」というのは、もう何年も言い続けています。独りよがりでなく、ゲームをプレイしたお客さんがどう受け止めるかを考えて歌おうよって。J-POPは自分の音楽性をさらけ出して、それを受け入れてくれる人が聴いてくれるって感じですよね。そこは大きく違うと思います。

―――なるほど、わかりやすいですね。

沢田:例えばゲーム主題歌だけを聴くことがあっても、聴く人はゲームのシーンやキャラクターを思い出しながら聴くんだと思います。その時に、歌手が自分の世界を押し付けるような歌ではダメなんですね。むしろ聴く人の気持ちを包み込むようであるべきじゃないか。みんな、心の中にどこか柔らかいところがあって、そこを包み込んであげることが、僕たちの音作りには大事なんじゃないかなって思っています。ロックンバナナアーティストに吉岡亜衣加という歌手がいるのですが、彼女のファンは女の子ばかりなんです。そして吉岡は、音楽を作る時に聴いてくれる女の子のことを一番に考えている。声優の上田朱音の場合は、常に美少女ゲームファンの気持ちを考えて歌い、演技をしているんです。二人に限らず、弊社で活躍しているアーティストや声優は、間違いなくそのようなことをやっているはずです。

ベテランの安定感と新人のフレッシュさの融合で常にチャレンジを!

―――そんなユーザーとの距離感という意味で、ロックンバナナの声優さんはウェブラジオやイベントなどの形でも積極的に前に出ているような印象があります。

沢田:これは事務所を立ち上げた一番最初──長崎みなみの頃からやっています。これは大事なことだと思っているんです。もともと18禁の声優って、あまり客前に出ていませんでした。でも、僕は「やれますっていう子がいるならやりたい」と思っていて、それに賛同する声優が出てくれたんです。みんな頑張ってくれましたよね。イベントなどに出ることで、ユーザーさんの夢を紡いでいった部分もあると思うんです。もしも美少女ゲーム声優が誰も前に出ることがなかったら、ここまで盛り上がることはなかったんじゃないか。それに、お客さんのことを第一に考えないとイベントなんかできないじゃないですか。そこで得たものも大きいと思うんですよね。今もロックンバナナでイベントOKの若手は、そういうことを受け継いでいってくれていると思います。今はウチだけじゃないですけどね。どの事務所さんも頑張っていらっしゃいます。その流れを作ることはできたと思います。もしかすると声優業界としてはタブーだったかもしれないんですよね。でも、みんな頑張ってくれました。

―――そして活躍した声優さんが卒業されていくことも多いですよね。そのあたりはいかがでしょうか?

沢田:声優として成長していく中で、自分の目指すものと事務所が一致しなくなることはあります。その結果として辞めていくわけですが、それで関係が途切れるわけではありません。仕事では繋がっていますから、すそ野が広がっていっていると受け止めています。

―――そして、EEAもありますが、今後入ってくる新人に期待することなどはありますか?

沢田:実は美少女ゲーム業界で声優をやりたいという女の子は増えてきています。その中にはイベントOKという人もいるんですね。とはいえ、ビジュアルがいいとかだけじゃダメなわけで、そこは厳しく指導していますが。ただ、そういう気運を持って入ってきてくれる人が増えているのは嬉しいことですよね。メーカーさんにもぜひ、そういう新人たちの声を聴いてほしいです。そして彼女たちの「頑張りたい!」という気持ちに相乗りして、業界を盛り上げていってもらえればな、と。もちろん経験豊富な声優は安定性もあるし、引き出しも多いから色々なことに対応できます。その両方を上手に使っていってほしいなと思います。

―――今日は長い時間、ありがとうございました。最後に沢田さんの今後の展望をお聞かせください。

沢田:会社としては、音屋としてのスタンスは変わらない。「鼓膜を振動させて伝えるものだったら何でもやる」というのが社訓です。アダルトの音声を収録した同じスタジオで、直後に学術放送を録音したりもしますから(笑)。ただ、メディアや状況が変わる中で、今訴える力の強いものは何かを追求して、求められるものを作っていきたい。もちろん無駄もあるかもしれないけど、トライしていきたいですね。PCゲームもCDも、今は市場としてあまりよろしくない状況ですが、まだまだいろんな挑戦ができるはずです。私のほうからも提案できると思いますし、ぜひ一緒に盛り上げていきたいですね。