もともとはミュージシャンとしてデビューしながら、今は音響制作や声優・タレント事務所として活動するロックンバナナグループを率いる沢田昌孝氏。その哲学は「鼓膜を振動させて伝えるものだったら何でもやる」というもの。そのためにスタジオ作りから新技術や機材の研究など、できることは貪欲に取り組んでいる。そんな「自他ともに認める機械オタク」で「新しいもの好き」な沢田氏の事務所と仕事へのこだわりを伺った。
1989年 ロックンバナナ設立
2005年 声優事務所イエローテイル独立
2012年 タレント、アーティスト事務所の
    ロックンバナナアーティスト設立
 

タレント事務所から音響制作へ 新しいもの好きならではのこだわりが強み

音響制作や声優・タレント事務所として長年、美少女ゲームにかかわってきたロックンバナナ。最初は芸能事務所から始まった。

―――沢田さんがロックンバナナを設立したのは1989年ですよね。

沢田(敬称略/以下同):ちょうど平成元年なんですよね。なので設立何年目か数えやすい(笑)。

―――事務所を立ち上げられた経緯をお聞かせください。

沢田:もともと僕はミュージシャンとしてデビューして、芸能活動を続けてきたわけですが、キャリアを重ねながら徐々に裏方に回るようになっていったんです。そこでマネージメントのようなことも勉強させていただいて、そのあとで独立することになりました。それで立ち上げたのが現在のロックンバナナですね。

―――その時から声優事務所を?

沢田:いえ、最初に担当したのは女の子たちのロックバンドです。当時はガールズバンドが人気で、このバンドもテイチクさんからデビューするのですが、それをプロデュースする会社を作ったんですね。だから最初は音楽事務所ということでスタートしました。

―――声優事務所ではなかったんですね。

沢田:いわゆる芸能事務所といったところでしょうか。残念ながらバンドはヒットしなかったんですが、音楽制作会社のような仕事も受けていましたね。それから3~4年後、当時NTTのダイヤルQ2というサービスが始まるのですが、「これは面白いかもしれない」ということで、音声制作として参入したんです。この時は電話から聞こえる音声の作り方について、色々と研究しましたね。通常の音楽というのはスピーカーから不特定多数の人に向けて音を流すじゃないですか。でもダイヤルQ2は電話なので受話器から一人に向けて発信するんですよね。ということは、音の作り方も違うんじゃないか? では、どういう音が受話器から聞こえてきたときに訴求力があるのか、とか。実際にエミュレーターを作ったりして、いろんな装置やマイクを使って実験したんです。その結果、「こういう音なら受話器から聞こえてきたときに一番心地いい」というところにたどり着いたんです。これが業界でも評判がよくて、結果としてダイヤルQ2の音声制作のシェアで1、2番を争えるくらいになりました。

―――通常の音楽などを録音するのとは、どのようなところに違いがあったのですか?

沢田:そもそも電話というのは伝わる音域が狭いんですよ。8000Hz以上の高音域や、低い音なんかはカットされてしまう。だから単純にいい音で録音すればちゃんとしたものになるかというと、そうじゃないんですよね。むしろ白々しい、耳元で話しているのとは違う感じになってしまう。電話で聴いたときに一番自然に聞こえる音声はどうかということを追求すると、そういう部分がわかってくるんです。

―――そこまでこだわって作られていたというのは、当時でも珍しかったのではないでしょうか。

沢田:実は僕、自他ともに認める機械オタクでして(笑)。子供の時から気になった機械があると、なんでもかんでもバラして仕組みを見てみたいタイプだったんです。音に関しても一緒で、「どうしてこういう音がでるんだろう」「どうやったら聴きやすい音にできるだろう」ということを必要以上に気にしちゃうんですよね。でも、そのこだわりがダイヤルQ2の中で結果を出せたわけですから、機械オタクでよかった、と(笑)。今、パソコンゲームの音声を作っていますが、これも「パソコンから音を出すとしたら、どういう音が一番よく聞こえるか」にこだわっていますから。

―――なるほど。

沢田:我々がPCゲームの音声に参入した頃は音響機材もまだまだ残念なレベルでしたからね(笑)。当時はMacintoshで録音した音声を、Windowsに移植していました。そこでもいろいろ研究した中で「こう録音したほうがいいな」って方法論を作り出しました。その当時の方法で、今でも使っているものもありますよ。それを再現するために、実は古い機材にも捨てられないものがけっこうあるんです。そういった機材の中には部品の在庫がメーカーにないものもあるんで、故障したら修理ができない。だから何台も同じ機材をストックしておいたり(笑)。

携帯電話の着信音も研究 ショップ並みに最新機種も揃える

―――お話を聞いているとダイヤルQ2に参入して研究したことが、今のお仕事にもつながっているんですね。

沢田:そうですね。あの時からずっと研究しています。知らないことをそのままにしておけない性格なんですよね。新しい技術があると、知りたくなってしまうし研究したくなる。研究したといえば携帯電話の着信音についてもいろいろ研究しました。まだ3和音くらいしか使えない頃から参入して、たくさん作らせていただきました。まだSEのレベルだったんですが、黒電話の音とかFAXの送信音とか、当時そういうのを使っている人がいたじゃないですか。有名な会社の携帯電話にプリセットされている音源も作りましたから、皆さん知らないうちに弊社の音源を利用されていることもあるんじゃないですかね(笑)。

―――携帯電話と一言で言っても、メーカーごとに規格が違ったりしますよね。そのあたりも大変そうです。

沢田:だから、その当時はたくさんの携帯電話が会社にありました。それこそメーカーごとに最新機種が出たら買っていましたから。そのうち、メーカーさんから次の新作の情報なんかも届くようになって。あの当時はちょっとした携帯電話ショップよりも機種は豊富だったんじゃないかな(笑)。最新機種がどんな携帯電話か確認させてほしいなんて事務所に来た人がチェックしていったりしてね。

―――それはすごい(笑)。

沢田:僕自身も新しい機種には興味があったから、どんどん触れたのは楽しかったです(笑)。とにかく単純に新しいもの好きというか、テクノロジーに触れていきたいんです。そうしないと、若い人たちに置いて行かれてしまいますからね。自分もいい年齢になってきているんですが、若い人に負けないように勉強していこうと思っています。

フリーの声優がいつの間にか所属扱い!?人とのつながりで始まった声優事務所

ダイヤルQ2時代に音を研究したことが今の仕事に繋がっている点は少なくない。「新しい技術を研究したくなる」気持ちが可能性を広げた。

―――でも、お話を伺った限りでは、ミュージシャンというより、昔からプロデューサーなどのお仕事のほうが向いていらっしゃったように聞こえてきます(笑)。

沢田:そうですね、そうかもしれません。僕自身、中学生くらいから音楽の世界でメシを食うんだって決めていました。でも、地道に練習を続けるというよりは、音楽を作るためにいろいろ工夫するほうが好きだったと思います。テープレコーダーを改造して多重録音できるようにしてみたり、イベントをプロデュースしてみたり。だから自分が演奏するより、プロデュースや制作のほうが向いていたのかもしれません。ただ、当時の僕は「ミュージシャンになるんだ」って気持ちが強かったので、そちらを考えないようにしていました。

―――でも、それだといざ裏方に回ったときに、大変だったりはしなかったのですか?

沢田:それが改めて裏方に回ったときに、全然苦にならなかったんですよ。むしろミュージシャン時代のほうがつらいことは多かったのかもしれません。だから事務所を立ち上げてからのほうが、やりたいことがやれていると思います。

―――やりたいことといえば、ロックンバナナという事務所は声優事務所という認識ですが、声優のマネージメント以外にもいろいろな仕事をされていますよね。

沢田:確かにそうですね。「何の事務所なの?」って訊かれますから(笑)。結局、僕が興味を持ってしょうがないことをあれこれやってきただけなんです。「音響関係を全部やれれば、仕事をまとめて受けられる」というのは、そうして手を出してきた結果なだけなんですね。

―――とはいえ、やはりメインは声優事務所だと思うのですが、声優のマネージメントなどを手掛けるようになった経緯を教えてください。

沢田:実は声優に関しても、当初はマネージメントをやろうなんて考えていなかったんです。ダイヤルQ2やパソコンゲームの音声を作る時にも、当時はフリーランスの声優を使っていましたから。ところが、そのうちにウチに仕事の話が来たり、ファンレターが届いたりするようになるんです。そうなると実質的にマネージメントのようなことをすることになりますよね。もともとバンドをプロデュースする会社だったし、マネージメントも会社の定款に入っているし、それならやってみるかって始めたんです。

―――そんな流れで始めたというのはちょっと驚きました。

沢田:そうでしょう(笑)。でも、始めたらこだわるタイプですし、生半可な気持ちで出来る仕事でもないのは知っていますから。「やるならばちゃんとやろう」ということで、プロデュースの方法などもいろいろ研究しました。

―――今では音響制作のロックンバナナと声優事務所のイエローテイル、タレント事務所のロックンバナナアーティストの3つの会社に分かれていますよね。

沢田:当初イエローテイルはロックンバナナの声優事業部ということで立ち上げたんですが、マネージメント協会というところに参加するにあたって、制作会社がマネージメントをやっているのはよろしくないのではないか、ということで2006年に法人化しました。その下部組織として養成所のEEAがあるのですが、これはイエローテイルが独立する前に設立したので、共に10年以上になりますか。あっという間ですね。それで当初はイエローテイルに声優だけではなく歌手も所属していたんですが、声優と歌手ではプロデュースの仕方が違うんですね。それを一緒にやっていくのは難しいということで、2012年にロックンバナナアーティストを立ち上げました。当初はバンドのマネージメントとして立ち上げた会社だったので、ようやくそこに戻ってきたという感じです。



美少女ゲームの仕事を始めた経緯やプロデュースのこだわり等は、来週更新の後編で紹介します。