2000年にヒット作『カナリア』でデビューしたフロントウイング。その後『魔界天使ジブリール』『ほしうた』『グリザイアの果実』とヒット作を生み出してきた。そんなフロントウイングの代表として、設立時からブランドを引っ張ってきた山川竜一郎氏は、紆余曲折の中で国内市場の現状と海外市場の可能性を把握。2010年の10周年を機に、大きくブランドの方向性を転換。それが2016年に形になって表れた。その判断の本質を伺う。
1999年 フロントウイング設立
2000年 デビュー作『カナリア』発売
2004年 『魔界天使ジブリール』
     『ほしうた』発売。以後人気シリーズに
2007年 ブランド初の3D作品『タイムリープ』発売
2011年 10周年記念作品『グリザイアの果実』発売。
     以後、人気シリーズに
2014年 『グリザイアの果実』TVアニメ化
2016年 『コロナ・ブロッサム』
     日本語版・英語版同時リリース
2017年 『グリザイア ファントムトリガー』
     日本語版・英語版同時リリース
 

近づいた日本と海外のアニメファンの嗜好が海外進出の第一歩

―――フロントウイングさんは海外展開も積極的に行われていますよね。

山川:2年半くらい前からですね。たぶんきっかけは、海賊版対策としてCrunchyrollで日本のアニメが海外でも同時配信されるようになったこと。この配信で、マニア以外でも日本のアニメを見るようになったんですね。その結果、日本と海外で人気作品のタイムラグが小さくなりましたし、AXやジャパンエキスポの参加者が爆発的に増えていって、「これはいけるのではないか」と。さらにコンシューマー業界を見ても、シェアは圧倒的に海外のほうが大きくなっている。これなら本腰を入れても大丈夫だろうと考えました。

―――なるほど。

山川:最初に『グリザイア』シリーズを翻訳して販売しました。ただ、物語が長くて値段の高い作品は売れないんですね。そこで考えたのが『コロナ・ブロッサム』の展開でした。1本2000円で3本のシリーズ作品。日本ではそういう市場はないというのはわかっていたのですが、海外で売るにはそうするしかないと判断をしました。

―――『コロナ・ブロッサム』はパッケージとダウンロード(以下、DL)販売。DL販売はsteamで行われているわけですが、steamだと購入者数はどの国が一番多いのですか?

山川:アメリカが1番多いですね。日本でも若干売れています。それと通常、シリーズものは巻数を重ねると数字は落ちるのですが、『コロナ・ブロッサム』はほぼ横ばいなんです。これにはクラウドファンディングの取り組み方を考え直したのも影響していると思います。

―――1本2000円で3部作という販売形態以外に、内容等で海外販売を意識したアプローチは行ったんですか?

山川:それはないですね。お笑いやドラマなどは面白さのツボが文化によって違うんですが、アニメやゲームの萌えや面白さのツボは文化が違っても一緒なんです。ですので、そこはあまり気にしませんでした。不思議ですよね。理由はわからないので、誰か学者さんが研究してくれないかなと思いますけど(笑)。

―――市場的な部分での差は感じましたか?

山川:日本よりファンを囲い込むのが難しいですよね。どこに発信したらユーザーが捕まえられるのかがわからないんです。Facebookを使って少しずつ確実にファンが増えているのはわかるんですけど。これがもっと爆発的に増えるようであれば、仕掛け方も変わると思います。海外のYouTuberが取り上げたりすると一気に広まるんですけどね。

―――そこが一番の問題点ですか。

山川:あとは違法サイト。海外でも出てきています。そしてこれは実感なんですが、日本より海外のほうが違法DLを使う割合が高いように思えます。日本人のほうが、まだお金を払ってくれるんだなって思いました。

海外進出を促進するために、アニメを含めた新たなシステム作りを

海外展開を積極的に進めるフロントウイング。クラウドファンディングも話題となった『グリザイアの果実』を通して海外市場を分析。昨年は8月に『コロナ・ブロッサム』を日本語版・英語版で同時リリース、今年は4月から『グリザイア ファントムトリガー』のシリーズ展開を進めていく。

―――そうした問題を踏まえても、今後、海外の美少女ゲーム市場は拡大すると考えられますか?

山川:アニメと合わせて考えていかないといけないかな、と思います。アニメとは切っても切れない関係ですね。ただ、そうなると既存の制作委員会方式では厳しい状況も出てくるでしょう。海外企業が製作委員会に莫大な資金を出すと提示したときに受け入れられるのか。クラウドファンディングとの相性の悪さもあります。リワードでブルーレイをつけるというのは、制作会社としては受け入れられないでしょう。20分で1クール13話というのもテレビ局の都合ですが、ネット配信を主流に考えるなら、そこに拘泥する必要はないですよね。

―――海外展開に合わせたシステムを考えなければいけないんですね。

山川:そういうことです。広報や営業も、海外のやり方やスピード感に対応できるようにしなければならない。フロントウイングは英語ネイティブのスタッフがいます。いちいち海外からの書類を日本語に翻訳していてはスピード感に追い付かないからなんです。2016年は海外展開の方向に大きく舵を切った1年でした。

海外と国内、双方を見ながら、新たな業界の形を模索

―――今後も海外に目を向けてゲームを展開していきますか?

山川:もちろんです。現在制作している『グリザイア ファントムトリガー』という作品も、英語版を日本語版と同じ日に発売します。また、この作品でも、低価格で定期的に発売する方式を取ります。日本には、低価格の市場が無いのですが、頑張って挑戦します。この方法だと3か月に1本ゲームを出せるんです。発売スパンが短く、1本ずつは安く、それでいて一つのコンテンツをグッズ展開も含めて長く楽しめるほうが、ユーザーもうれしいんじゃないかと思うんです。

―――これまでのドメスティックな美少女ゲーム市場の在り方とは大きく変わってきますね。

山川:これまでは2年くらいかけたソフトのピークが、発売から3日間くらい。アニメ化があっても、そこからさらに何年かたってしまいます。でも『コロナ・ブロッサム』のやり方ならピークがしばらく続く。もちろんそのための仕掛けを考える必要はありますけどね。結果的には会社の安定経営につながるのではないかと思います。

―――フロントウイングは、今後フルプライスのゲームは作られないのですか?

山川:いえ、現在企画を動かしているのはあります。でも基本的には『コロナ・ブロッサム』のやり方で行きたいと思います。

―――現在の市場状況に合わせた制作・販売形態をとるということですね。

山川:そうですね。店舗特典についても、特典という形ではなく「店舗販売のグッズ」として制作して卸す、という方法を考えています。なぜなら2000円のゲームにはフルプライスのソフトのような特典はつけられませんから。さらに言えば、この方法ならフルプライスのゲームでもつけられなかった、クオリティの高いグッズを作ることができるんです。もちろんユーザーは購入するためにお金を払うことになりますが、そのゲームやキャラのファンなら、多少お金がかかっても品質の良いグッズの方が喜ぶのではないでしょうか。

―――なるほど、そのアプローチが定着すれば、ここ数年で大きな変化になりますよね。

山川:実際にLoseさんはその方法で成功していますし、今後は同じやり方をするメーカーが増えていくと思います。同じことを考えているメーカーさんと、話をしてみたいですね(笑)。

―――海外でのゲーム販売が出発点でありながら、結果的に国内でもメリットを生んでいくわけですね。

山川:そう思います。先ほども言いましたが、『コロナ・ブロッサム』は国内で売れなくてもペイできると考えて作りました。結果的にシェアは海外5割、国内5割ですが、海外展開を重視したことで見えてきたことがたくさんありました。例えば海外のセールスはほとんどがDLなんです。これは国内のDLでも同じことなのですが、パッケージと違ってDLは長期間売れますので、マーケティングやデータ分析が重要になってくる。発売日前に盛り上げて、発売した週末だけで終わってしまうパッケージゲームの売り方とは、全く違う考え方が必要になっています。

―――広報面で変えたことはありますか?

山川:これまで公式サイトの情報公開は段階を踏んでやってきましたが、3か月ごとの発売の場合は最初に全部の情報を出してしまったほうが効果的だと考えています。そうすることで、どんなタイミングで公式サイトを見に来ても情報が手に入る。むしろ見に行ったタイミングで情報量が少ないから買うのをやめるという、機会ロスのほうが大きいと考えています。

―――これまでのゲーム制作、販売方法を大きく転換するアプローチですね。

山川:攻略ヒロインが5人でシナリオ2MB以上という形は、ある意味ユーザーが望んで出来上がった形でもありますよね。でも、そこにこだわらない作り方もある。もちろんそれは海外に目を向けたからできたことで、国内だけを見ていたら絶対にできなかったと思います。

―――新しい展開、期待します。

山川:ありがとうございます。僕としてはぜひほかのメーカーさんにも海外市場に来てほしいと思っているんです。僕も期待しています。