長年、美少女ゲーム業界に関わって、多大な影響を与えてきたキーマンの足跡をたどる「PRESIDENT VOICE」。第二回目は(株)ビジュアルアーツ代表取締役・馬場隆博氏。25年以上にわたるキャリアもさることながら、その活動で特徴的なのは長年にわたり"美少女ゲーム"をPCだけでなく、音楽、イベント、ライブ、アニメと活躍の幅を広げ、かつ今も続けていること。その【プロデュース】の焦点を絞り、美少女ゲームと他メディアとの関わりの歴史も辿る。
1991年 ビジュアルアーティストオフィス設立
1995年 ブランドシステムの確立
1996年 ビジュアルアーツに社名変更
1999年 I've音楽CD「Regret」発売
2001年 KeySoundLabel設立
2002年 TVアニメ『Kanon』放送
2005年 I've武道館ライブ開催
2008年 KSLライブ開催
2009年 Key MEMORIAL FES開催
2010年 TVアニメ『Angel Beats!』放送
2012年 ビジュアルアーツ大感謝祭
2014年 character1初代理事就任

最も多くの美少女ゲームをリリースしてきた(株)ビジュアルアーツ(以下、VA)。その要因には、馬場氏が考案したブランドシステムと、運用の信頼性があった。開発の現場から次第に多くの「ゲーム」をプロデュースするようになり、やがてその活動は「音楽」「ライブ」「イベント」「アニメ」へと広がっていく。それは美少女ゲームが可能性を広げてきた歴史でもあり、今も継続しているが故のノウハウは他社に比べ突出していると言えよう。今回のインタビューではカテゴリーごとに手掛けた経緯や今後の展望についてまとめ、美少女ゲームというコンテンツが発展するための道をたどっていく。

「音楽」をプロデュース

―――馬場様のプロデュース展開として、最も有名なのはI'veブランドから始まる「音楽」の展開だと思います。美少女ゲームの音楽CD販売は今でこそ普通の光景ですが、RSK(※1)と協力して販路を確立。VA傘下の音楽ブランド・I'veが制作したアルバム『Regret』の大ヒットが、その始まりでした。まずI'veとの出会いから教えてください。

最初はゲームメーカーとして会いましたね。VAがブランドシステム(後述)を作ったことで、玉石混合色んな会社が寄ってくる。中には「お金だけもらっとこう」みたいな詐欺まがいの会社もありましたよ。北海道からはそんな有象無象が集まってきて、その中の一つがI'veだったんですね。初めてお会いして打ち合わせをし、さあ帰ろうとなったときに慌てて「実は今日の3時までにお金がいりまして」と言われて(笑)。

―――かなり良くないのでは……(笑)。

別会社ですけど闇社会に借金していて、その肩代わりすることもあったね。それでもまあ指導はして、何本か開発してもらったのですが、まったく売れない。ただ、曲だけが異常にクオリティが高かった。当時で歌曲が3~4曲あったのかな、オーバークオリティも甚だしいと思って、音楽をやったらどうかと依頼してみたのが『Kanon』の編曲。これが凄くいいものを作ってきた。彼らは音楽ブランドをやらせた方がいいだろうと。

―――そのビジネススキームも馬場さんが考えられましたね。

当時も主題歌の仕事は受けていたようです。ただ、どこが作ったかは隠して、ブランドの曲として発表されていた。それではI'veは大きくなれないから方式を変えようと。ゲームのための主題歌だけど、あとでアルバム入れることを承諾してもらう。著作権の留保ですよね。その契約書も私が作って、またI'veの曲が入っていることを示すマークも作った。契約するときのセールストークも教えたりしましたよ(笑)。

(※1)…流通会社。当時の営業担当が全国店舗をまわってCDスペースを確保していった

コミケで2.5万本

流通会社と協力し美少女ゲームの音楽CD販路を確立。I've制作のアルバムは大ヒットし、武道館でのライブへと到達した。

―――そのI'veは2005年に武道館ライブを開催するまでに成長します。

それまでもKOTOKO(※2)さんを中心に、ジェネオン(※3)等が主催のライブは行っていましたが、それだけではI've自身の売り上げにはつながらない。I'veを売るためのライブが必要だろうと考えた訳です。

―――自分も当時は取材していましたけど、いきなり武道館はインパクトありました。

私の夢だったからね。

―――ライブ開催の記者会見もありましたよね。かなり珍しい展開だと記憶しています。

 記念のラベルを貼ったお茶を用意したり、USBで媒体資料を配布したりね(笑)。ライブの中身はI'veに任せて、自分たちは宣伝やグッズ販売を行いました。そこでライブがビジネスとして成立する手ごたえを掴んだんです。またこのライブを見ていて、自分たちなら違う演出、例えばもっとゲームに合わせた演出するだろうと考えていました。

―――それがKSLライブにつながるわけですね。その中心になるのは2001年設立、Keyのサウンドチーム・KSL(KeySoundLabel)の楽曲ですが、設立の経緯をお聞かせください。

大阪のあるイベントに参加したとき、初めてアルバムを作ったのですが、どれくらい売れるかわからず500枚作って持っていったらあっという間に完売して、自分たちの音楽が売れることを初めて理解したんです。それからコミケの企業ブースで、当時は他社さんにお願いしていたのですが、ミニアルバムを販売しました。先方が何本送ってもいいと言ってきたので生産した全て、25,000枚を送ったんですが、それも完売してしまった。今となってはその枚数がとんでもない数字とわかりますけど、当時は完売と聞いても「そうですか、ありがとうございます」と軽く流していましたよ。このヒットがKSLの原点ですね。

―――その後、毎年アルバムをリリースしています。

大阪の自社ビルに二つ。東京にも一つスタジオを作ったんですよ。それが会社としての姿勢ですよね、本格的に音楽をやっていくという。CDの販売については、もう時代ではありませんけど、聴くための色んなツールに変換できますし、円盤が一番確かという面はあります。まだ、しばらくは販売していきますね。勿論、同時に配信もやっていますし、こちらの割合はかなり伸びています。

(※2)…I'veのメインボーカル、美少女ゲームの音楽シーンをけん引した一人
(※3)…現在はジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント。音楽・映像関連を幅広く手掛ける

ガチのクリエイター

―――続いて「ゲーム」についてお伺いします。数多くの作品・ブランドを展開されているため、最初からプロデューサー的役割をされていたと思っていたのですが、アキバblogの記事(※4)を見ますと、ブランド初期はシナリオ・プログラム・音楽と、絵以外は一通りやられていたんですね。

全てやったのは最初だけですけどね。実は絵も一度は挑戦したんですよ。音楽はメロディを作ってそれを編曲してもらった。使い物にはならなかったけど。シナリオもプログラムもやって、ただ内容は、あの時代だから許されたレベルですよ。

―――ガチのクリエイターとは意外でした。

そうですか?周りにいる人たちは皆、自分の本質はクリエイター気質と知っていますよ。というか社長には向いてないんですよ、職人気質が強すぎて。好き嫌いで判断するし、お金の計算よりも作品のことを考えてしまうタイプですから。最近もある作品の効果音が気に入らなくて、何度もリテイクを出していました。一度気になったらずーっと気になってしまう。こだわっているのが社長だから始末に負えないというか、いつまでたってもリリースされない(笑)。

―――現場にどっぷりだったんですね。

こんなこと言ったら現場に怒られるけど、プログラムだってやる気次第ですよ。会社の立ち上げ時には電子回路とかも自分で作ったりしました、まったく知識のないところから本買ってきてね。ただ、一本目を作ったときにほぼ1年かかった。私の人生これを20本並べたら終わりってなるのは嫌だなと、もっと多くのソフトをリリースして業界に影響を与える仕事がしたいと考えました。

(※4)…秋葉原の某ショップ元店長が、アキバ系のニュースをお伝えする人気サイト。アキバ系な著名人のコラムも不定期連載されており、馬場氏は2011~2013年を中心に連載。

「ゲーム」をプロデュース

―――その発想は面白いですよね。

当時はTSUTAYA等で展開されていたフランチャイズのビジネススキームが流行っていた。それを美少女ゲームに持ち込めないかと考えたわけです。また、社員が独立してブランディングしていくのが基本スタイルとなっていくのですが、これは我が社の信用につながっていきました。互いに信用関係がないと、辞めた人とその会社が商売するのはありえないじゃないですか。ブランドが増えるたびにVAはしっかりとした会社だ、という印象が積み重なっていった訳です。

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40歳での大転換

会社設立から全力で走り続け、朝から深夜まで働いてからの、40歳での転換期。社内的にも社外的にも大変だった模様。

―――この仕組みが確立するころから現場を離れ、プロデュース的な仕事に移行するのでしょうか。

いや、全部自分で仕切って、全部見ていましたね。開発しているのを見ていたし、ブランドにも毎日電話してチェックして、アドバイスやデバックもしていた。まあ敏腕編集者みたいな感じかなと。

―――それはかなり大変なのでは…?

「馬場隆博と40人の仲間たち」といったノリでやっていましたけど同時に何種類も仕事をこなして部下に指示してと大変でしたね。それで40歳になったころ、ちょっと迷ったんですよ。このまま会社に全能力を傾けるのか、それとも自分の人生も大切にするか。このままなら会社はもっと大きくできるかもしれないけど、家族や自分の時間は大きく損なわれる。で、結局は活動の大転換をしたわけです。まず、自分が会社にまともに行かなくなった。

―――え!?

私に頼らない組織にするためにね。でもそのために、あの頃は業界に対しても酷いことやりましたよ。例えば今日、取材で大阪まで来てもらっていますけど、その約束をすっぽかす!

―――それは……、びっくりですね(苦笑)。

週三日しかこなかったり夜中に来てみたり。自分も意地になってアポイントも偉そうな人ほど行かなかったりしてね。まあ『AIR』のヒットもあって、今なら潰れないだろうという計算はありましたけど、今思うと何故そういうことができたのかと(笑)。当時はたぶん壊滅的に評判落としたと思います。

―――……それでよく会社が回りましたね。

回りませんよ(笑)。でも社員が自分でものを考えるように、会社が私がいないくても動くようにするためにはどうしても必要だった。2年間やりましたから。社員はもう大パニック!

―――それは大変だったでしょうね(苦笑)。ともあれ、社員が独立と言うか一本立ちしないといけない状況と言いますか、社内が大きく変わったのは伝わりました。

ブランドシステムも数年かけて改革し、拡大させていきました。ただ、その仕組みも今の時代には合わなくなってきましたね。昔と同じことをやっていたら会社が潰れてしまう。ここを変えるために先導して旗を振るのが今の仕事です。おかげで50歳定年の予定が崩れてしまって今はロスタイム(笑)。もう少し安定しないと引退はできないでしょう。

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「ライブ」をプロデュース

―――それではライブについて伺います。初めてのKSLライブが2008年。以降、1~2年おきに開催され、今年も4月に行われました(※5)。ライブを開催するブランドは少なくありませんが、これだけ多く、定期的に開催するのはVAさんだけだと思います。ライブにこだわりと言いますか、ライブが好きなんでしょうか。

あまり表にはだしませんけど、ライブを制作しているのは基本的に自分なので、こだわりの塊みたいなところはありますね。まあ好きなんだと思います。ゲームを作るのと同じで、お客さんを驚かせたり喜ばせたりするのがね。ゲームはプレイしていただいた後からですけど、ライブはその場でお客さんの反応がわかる。それを予測しながら、会場の後ろでライブを見ているのはとても楽しい。

―――何度も制作してきて、苦労される点は何でしょうか。

複数アーティストに参加いただくライブなので、それぞれに出演交渉や出番に配慮して、良いところを引き出し、全体としては次第に盛り上がっていく。その調整は大変です。そして何より大事なのがセットリスト。ここですべてが決まると言っていい。

―――他メーカーにアドバイスされるとしたら、どういった内容をお話しされますか。

やはり収益ですかね。まず、自分の会社が何人のユーザーを呼べるのかを見極めて会場を選ぶ。最近だとその数字を図る意味でも、クラウドファンディングは有効だと思いますよ。会場のサイズが決まれば費用や収益の計算をたてることができる。黒字になれば、またやろうという気持ちになりますよね。ライブ自体は話題性がありますし広告効果も期待できる。我々も営業制作の一環としてやっていますが、ライブ単体でもトントン以上にもっていくようにしています。広告費と捉え「マイナスになってもいい」と考えることはやめた方が良いと思います。

(※5)…4月30日「KSL Live World 2016 ~the Animation Charlotte&Rewrite~」開催

「クリエイター」をプロデュース

露出自体が少なかった時代に、クリエイターをライブ等に登場させる。トークも慣れて、ユーザーにとっても嬉しい存在に。

―――I'veの武道館ライブでは折戸さん(※6)がステージで演奏されましたよね。開発者がああいう場に立つのは、当時かなり珍しいと感じていた記憶があります。

2005年からセレブ化というか「社員文化人化計画」を立てたんですよ、それで折戸にもライブ出演してもらった。クリエイターって何が一番嬉しいのかを考えたとき、尊敬されることじゃないかと。コンテンツを作って発表して、それを直接褒められることが一番の糧になると考えたんですね、それでクリエイターを有名にして、またユーザーと触れ合える場所に出ていくよう仕向けたんです。雑誌のインタビューも積極的に受けるように言いました。

―――ステージでトークショーやっているブランドも多いし、開発者がwebラジオのパーソナリティもやっていました。

美少女ゲームの開発者って昔から引き抜きが多くて、隠すことが普通だったし、そっちをとる道もあったとは思います。ただ、彼らの認知度が上がれば会社の認知度も高くなり、それが会社の利益になる。

―――今となっては、ステージ慣れしている方も多いですよね。

最初は嫌がっていましたけどね(笑)。何事も経験だと思います。彼らの考え方を聞いていくとアーティスト的で、工業製品的な生産体制には似合わない。となればクリエイターとして表に出す方が、面白いことが起きるとだろうと。

(※6)…Key所属の作曲家。「鳥の詩」の大ヒットで確固たる地位を獲得。

「イベント」をプロデュース

「ビジュアルアーツ大感謝祭」は美少女ゲームメーカーの中でも最大級のイベント。また初代理事を務めたcharacter1は人気イベントの地位を確立した。

―――「ライブ」からの発展と言いますか、2008年のKSL Liveに続いて2009年にはKey10周年記念イベント「Key MEMORIAL FES」が開催されます。イベント開催の意図を教えてください。

 今風に言うとフェスティバルをやりたかった。物販や展示物がありトークショーを聞けて、ガチャなどのゲームも楽しめる。そこにライブを加えて、Keyファンが集まって1日楽しめる場所を作りたかったんです。

―――その集大成が2012年開催の「ビジュアルアーツ大感謝祭」でしょうか、横浜アリーナを借り切っての。

そうですね。あの規模は本当に大変でしたよ。大感謝祭の経験があるから、もうどんなイベントやっても怖くないという気さえします。

―――そして2014年には、VAのイベントではなく、キャラクターコンテンツ総合展示会・character1(※7)の代表理事に就任されます。

COMIC★1(※8)代表だった市川さんが、そのイベントにコミケの企業ブースみたいなものを作りたいと考えておられたそうです。そこから人づてで私に連絡があり、代表理事を務めることになった。ただ、私が務めるのであれば全年齢のイベントであること、そして入場無料という方針は決めさせていただきました。殻に閉じこもると言いますか18禁だけのイベントでは未来がないと思いますから。また、恒常的な組織にするためドワンゴさんやグッドスマイルカンパニーさん等に声をかけて理事組織にして、合議運営する母体を作った。character1グローバルマネジメントという会社もつくり、今はこちらも代表を務めておりますが、今度の決算が終われば後任に引き継ぎます。代表理事の方はすでに山川さん(※9)にお任せしていますから。

―――形を整えたら次に譲ると。

DNAをデザインしたら、あとは若い人に任せた方が良いと思っています。地位にしがみつくのはかっこ悪い(笑)。

―――今年のイベントも盛況でしたね。

これでほぼ"勝ち"は確定したかなと。今後は間違いがなければ、ちゃんとしたイベントとして育っていくでしょう。

(※7)…毎年GW時期に開催。出展メーカーには美少女ゲームメーカーが多い。
(※8)…男性向サークルが中心の同人誌即売会。
(※9)…フロントウイング代表取締役。

「アニメ」をプロデュース

―――少しプロデュースとは外れる部分もあるかと思いますが、TVアニメ展開も長く、積極的に続けています。最初は2002年放送の『Kanon』でした。

僕自身『Kanon』という作品に惚れ込んだので、多くの人に遊んでもらいたいとPCで全年齢版を作ったんです。当時はコンシューマ移植する場合、タイトル変更する慣例があったようなのですが、先にPCで全年齢版があったため、結果的に同じ名前のまま移植された。その流れでアニメ化の話に繋がっていったんです。

―――そういえば美少女ゲームの移植版はサブタイトルがついたりしましたね。

アニメについては2000年中盤の技術革新が大きい。それまではPCゲームをアニメ映像化するのは難しかったのですが、デジタル化によって一気に解決されていきました。

―――それが『AIR』等の大ヒットにつながるんですね。さらに『AngelBeats!』ではアニメ脚本も手掛けるようになります。

麻枝にアニメのシナリオをやりませんか、という話をいただきましてね。ゲームの後にアニメだったのが、ついにゲームの前にアニメを作るようになったかと(笑)。ただアニメが我々のメインストリームになるかと言えば違う気もします。やはりゲームで新しいことをやらないといけないでしょう。

―――今夏からも動画配信と劇場版で『planetarian』、TVアニメで『Rewrite』が放送されます。

キネティックノベルから始まって『planetarian』も色んなメディアで展開してきましたが、ついにアニメにたどり着きました。配信では最新の物語を、劇場版では『planetarian』の世界全体を包含した物語となります。『Rewrite』は、物語の解釈が難しいという問題があったんです。実は『Rewrite』の世界を完璧に理解している者はスタッフにも一人もいなくて、さすがにそれはおかしいでしょうと。7月29日に発売する『Rewrite+』はFDとのセットに加え、本編の世界をわかりやすく伝えられるように再構築しました。TVアニメもそのように制作されていますし、我々が監修している新シナリオもありますよ。

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