美少女ゲームの販売戦略に、切っても切れない気悪のひとつとなっている特典アイテム。その特典展開は様々な進化を見せているが、近年注目されている一つが低価格ソフトのアイテム同梱版だ。抱き枕カバーやタペストリーなどの人気アイテムを同梱することで、3000円~4000円の低価格ソフトを1万円前後で販売する企画は、この3~4年で一気に業界に定着した。この企画の現状について、流通とメーカーに話を伺った。


 約10年前から本格化

美少女ゲームの販売戦略の中で、特典アイテムを使った販促というのは主流のひとつ。これまでも様々なアイデアが紙上を賑わせてきた。2000年代前半は特典グッズのアイデアも多岐にわたり、「これが美少女ゲームの特典アイテム?」と驚かれるようなものまで企画されてきた。
そんな中で大きな流れを作ってきたアイデアといえば、早期予約特典企画と低価格作品のグッズ同梱版だろう。早期予約特典が本格的にスタートしたのは2005年頃。HOOKSOFTの『_summer』などが販促展開として実施。美少女ゲームの販促展開の主力企画として、10年以上も活用されている。
そして近年、低価格ソフト販売を中心に注目を集めているのが、抱き枕カバーやタペストリーなどのアイテムを同梱して1万円前後で販売するというスタイルだ。グッズに注目が集まりがちなこの展開について、流通大手A社は「抱き枕カバー付きのゲームソフトは付加価値。基本はゲームです」とコメントする。

 「つければ売れる」ではない同梱アイテム付き低価格ソフトの難しさ

そんな流通A社に、まず2017年上半期の市場動向を伺うと「厳しい」と返ってきた。
「ユーザーさんの注目を集められる作品は盛り上がりますが、それ以外の作品が厳しい。“下げ止まり”という声もありますが、現状が変わっていない印象ですね」

とはいえ、そのような中でも手ごたえを感じられるシーンもあるという。
「一つは販売店さんの熱意。「この作品を推そう!」となれば、店頭はもちろんSNSなどでも積極的にプッシュしてくれています。それが作品の盛り上がりを後押ししてくれる」
そしてもう一つが、美少女ゲーム発売日に秋葉原などの店頭で行なわれる販促物の配布会だそうだ。
「ここ数年は流通としても地道に行ってきたのですが、ユーザー様に定着してきたかな、という手応えはあります。人気作の数に関わらず、最近は配布されるアイテムの数が一定している。もちろん無料配布だからというのはありますが、秋葉原などでは販売店に足を運ぶお客様が安定しだしたのかな、と思います。市場が厳しいと言われる中、続けてきてよかったと思えますね」

そんな美少女ゲーム市場で近年増えてきた「アイテム同梱低価格ソフト」については、「市場の結果を見て、「うちでもやりたい」というメーカーが増えてきた時期」とA社。打ち合わせの場でも、相談が増えているという。
「やはり結果が出ているというのはあると思います。ただ、勘違いしてはいけないのは、まずゲームありきということ。その上で、単発で出すのかシリーズ展開を意識しているのかでやり方も変わってきます。「つければ売れる」ということではないことはお話しますね」
抱き枕カバーやタペストリーなどを同梱すれば、その分の生産コストはかさむ。ゲーム作品に力がなかったり告知が足りなくて売り上げが伸び悩めば、その時のリスクは大きいのだ。
「fengさんやCampusさんが成功したのはブランディングが成功したから。fengさんはそもそも原画家人気が高かったというのもあります。その上で、あくまで「低価格ソフトを売るためのアイデアの一つ」であることを理解してほしいと思っています」

ただし、流通A社も低価格ソフトのグッズ同梱版へ注目が集まる理由は把握している。
「低価格ソフトはフルプライス作品と同じような店舗特典をつけにくい。そこをメーカーがフォローするというのは重要です。さらに販売店としては1本ソフトを売る労力が変わらなければ、利益の薄い低価格作品を推しにくくなりますよね。グッズ同梱で単価が上がれば、そのデメリットも埋められます。また、流通的な視点で見ても、作品単価が低ければ少数の追加発注や在庫意地が難しくなる。送料などはほとんど変わりませんから」
その上でデメリットも理解してほしいと語る。
「生産コストの話はしましたが、生産期間の関係で予約締切が早くなります。当然告知機関も前倒しになる。ここを認識していないメーカーは多いですね。もちろん事前に説明はします。その上で「やりたい」というメーカーさんと、一緒に盛り上げていきたいですね」

 新規ユーザー取り込みで企画したためアイテム同梱は既定路線だったCampus

流通A社の話にも出てきたCampusは、lightを要する株式会社グリーンウッドの新ブランドとして2015年にデビュー。第1弾作品の『ハルウソ -Passing Memories-』から一貫して低価格路線とアイテム同梱版展開を続けている。これには同社代表の服部道知氏の考えが反映されている。
「Campusは企画・シナリオを担当する工藤啓介が入社したから立ち上げたブランドですが、当時工藤は、いいものを作る実力はありましたが、シナリオライターとしてもディレクターとしても新人でした。なので、彼に経験を積ませながら知名度を上げなければいけない。その時に短期間で低価格作品を続けてリリースするという企画を考えたのです。『ハルウソ -Passing Memories-』から始まる「ウソ」シリーズは今年7月の『フユウソ -Snow World End-』で完結しましたが、企画立案から考えると2年かかっている。もしフルプライスで作っていれば、工藤を世に出すのに2年かかったということなんです。そうなれば、たぶん現段階での工藤の認知度はもっと低かったでしょう。その間にシリーズで4作出せたから『フユウソ -Snow World End-』があれだけ受け入れられたのだと思います」
ディレクターの工藤啓介氏も同じ認識だ。
「1本完成させることでわかることがある。それを2年で4本積み重ねられたことで得る者は大きかったですね。さらに短期間で作ることで、自分の経験やユーザー様の反響をフィードバックしやすいというのもありました」

もう一つ、服部代表には美少女ゲーム市場への危機感があった。
「市場が厳しいと言われるなかで、新規ユーザーへ美少女ゲームの敷居が高くなっている印象がありました。今の若い層はPCを持っていなくて、ゲームはスマートフォンで遊ぶ時代。そこの層を取り込まなければ、美少女ゲームユーザーは増えていかないと思ったんです。ならばスマートフォンでも遊べるゲームを作るしかないですよね。でも、いきなり2MB以上のストーリーを遊んでもらうのは無理。なのでPCで言うところの低価格作品を作ろうと思ったんです。無料でスマートフォンで遊べて、興味を持ってもらった人にPC版を買ってもらうという企画でした」

そのため、作品クオリティーはフルプライス並みにものを求めた。それは「美少女AVGは受け入れられる」という思いがあったからだ。しかし、低価格ソフトでは販売店の動きが鈍くなる恐れもある。そこで考えたのが抱き枕カバーやタペストリー同梱での販売価格アップという仕掛けだった。
「利益を出すための予算組と、販売店へのフォローを考えたとき、グッズ同梱は必須でした。その上でCampusのブランディングとグッズ制作のリスクを考え併せて、この企画を進めました」という服部代表だが、最初から成功とはいかなかった。初期作品の中には、同梱版だけ赤字という者もあったという。
「ユーザー様には「低価格シリーズの教科書的作品」と高評価をいただいていますが、販売で考えたら決して教科書ではないです。クオリティーにこだわったことで、予算は低価格作品の枠には収まらなかったですから」

例えば低価格ソフトには主題歌やOPムービーを使わない作品も多い。しかしCampus作品はそこにもこだわった。
「Androidユーザーに「美少女ゲームはこんなに面白いんだ」と感じてもらうために、美少女ゲームとしてのクオリティーは落としたくなかった」というこだわりが最終的に実を結び、「ウソ」シリーズは人気作品となり、『フユウソ -Snow World End-』は萌えゲーアワード2017のユーザー投票による7月月間賞を受賞した。
「この受賞がAndroid版のブーストになってほしいですね。Campusの今後の目標としてはAndroid版の販促強化。来年も数作品の発売を予定していますが、それぞれ抱き枕カバーやタペストリー同梱版も出します」という服部氏だが、この2年で単純に同梱グッズをつければ結果が出るものではないことも理解している。
「アイテム同梱版を売れるのは原画家人気がとても高いか、発売日に向けての作品の盛り上げがうまくいった場合。うちはそこが苦手なんですが(笑)、Campusは2年かけてブランディングできた。そういうところを感がて来たからこそ、今の結果があると思います」
 

 人気ブランドPULLTOPの新たな試みにもアイテム同梱ソフトを活用

PULLTOPの新作は、『Love Kami』は、『Love Kami -Sweet Stars-』『Love Kami -Trouble Goddess-』と低価格で2本同時発売という企画だ。この企画についてメーカーは、こう説明する。
「本作は海外で発売され評価されていたタイトルを日本版にローカライズした作品です。 “神さまが日常にいる”という大きな意味での世界観は共通していましが、ストーリー内容、キャラクターともに全くの別物で、それぞれが独立したタイトル。ユーザー様にはお好みのものからプレイしていただく、または、同時購入いただいて、双方を楽しんでいただきたいと思っています。あと、海外版にはなかったHシーンなどの追加を施したものでこの価格帯を設定しました。そのような企画だけに、ユーザー様の好みで選んでいただけるように、単品と、セット版を用意いたしました」

さらに抱き枕カバー同梱版も用意。こちらはどのような意図だったのだろう。
「若干ですが市場での流行りに乗ってみました(笑)。少し前まではゲーム発売後のグッズ化として抱き枕カバーなどを企画していましたが、最近では、ゲームとは関係のないキャラクターを使ったグッズ化を先行して企画したりしています。そんな中で、今回はゲームと同時に抱き枕も提供できたらユーザー様にも喜んでいただけるのではと思って企画しました」

PULLTOPといえば、これまでフルプライスの本格作品という印象が強い。その中での今回の企画。今後のPULLTOPはどう展開していくのだろうか。
「もちろんフルプライス版もリリースしていきますが、我々がユーザー様にお届けできる作品の形式は固定するものではなく、市場の変化に対応できるようにさまざまなことにチャレンジしていくつもりです」

ブランド設立から多くの人気作品を作り続け、一定以上の評価を確立しながら、現状にとどまらず新たなアイデアを積極的に取り組むPULLTOP。この姿勢があるからこそ、人気作をリリースし続けられるのではないか。今後の展開からも目が離せなさそうだ。