PCゲーム業界紙「PCPRESS」では毎年、年末に業界関係者にお話を伺い、その一年を振り返る特集を掲載してきた。「GameHeadline」では、同様に一年を振り返りつつも、新しい年の展望や、目指すべき方向性についてまとめていきたい。取材にご協力いただいたのはPCPRESSの特集と同様、コンピュータソフトウェア倫理機構・鈴木理事長、株式会社ヴューズ・藤原代表取締役、アールエスケイ株式会社・若月代表取締役、富士美出版BugBug編集部・大澤編集長。


 数字としては“踊り場”の2016年 大作が一昨年比で増えたことが要因

2000年代後半から続く美少女ゲーム市場の縮小傾向。その要因は業界内外ともに存在し、個人的には外的要因(若者人口の減少や違法データの流出)が強いと感じてきたが、縮小する市場に対してどのような活動をするべきかといった点は恒常的な課題であり、PCPRESSでもこの特集を中心に様々な内容を掲載してきた。

では2016年の数字はどうだったのか。コンピュータソフトウェア倫理機構(以下、ソフ倫)の鈴木理事長は、シール発行枚数を元に次のように語る。
「毎年のように今年こそはと言いながらも、ずっと数字は下がり続けていましたが、2016年は“踊り場”に入った、下降はしなかったという印象はありますね。底を打った、と力強く言えるほどの状況ではありませんが、月別の数字も、2015年と比べ上回る月が多かった年でした」

株式会社ヴューズ・藤原代表取締役は、その要因の一つとして大作の存在を指摘する。
「ソフ倫さんの数字を見ていくと2万本3万本といった大作の本数が2015年より増えている。メーカーごとにその数字が予定通りなのかは異なると思いますが、ヒット作の増加が市場全体の数字を押し上げる要因になったと思います」

ただ、全体の数字は持ち直したものの、鈴木氏も藤原氏も状況が好転したとは捉えていない。富士美出版BugBug編集部・大澤編集長も、ヒット作の動きを「限定的な盛り上がり」と感じている。
「昨年はゆずソフトさんやオーガストさんを始め、大きな話題になるソフトが多く発売されましたが、一つ一つは盛り上がっても、それが業界全体の勢いまではまだ繋がっていない印象でした。また美少女ゲーム誌、弊紙自体は昨年DVDを毎号つけるようになり安定した部数となりましたが、雑誌としてはなんとか無難に乗り切った年かなと捉えています」

 情報に触れる機会増加が数字に 2016年は若手メーカーの躍進目立つ

続いて目立ったタイトル、メーカーについてお話を伺った。アールエスケイ株式会社・若月代表取締役は、「情報拡散が上手くいったメーカーが数字を伸ばした」と分析する。
「以前にも増して、情報拡散できないと売上を伸ばしにくい状況になっています。早期予約キャンペーンも増えましたが、その情報が店や通販、情報サイトに掲載されることで、露出を増やしていく。また発売後だとランキングや口コミ等を通じて認知され、数字を伸ばすタイトルもありました。もちろん情報を流すだけでなく、見た瞬間に買いたいと思わせる商品の魅力(弊社では“価値係数”と呼ぶ)、その係数を高める努力も必要です」

その代表例として話題に上ったのが、2016年のトップセールスであろう『千恋*万花』(ゆずソフト)。
「予約開始時から特典の絵柄が全て揃っていたんです。商品開発が優先となり、特典素材の完成が遅れるメーカーさんの事情は理解できますが、メーカーのファンと一言でいってもコアからライトまで多様だと思うんですね。ライトな人の場合、常に最新情報をチェックするとは限らない。露出の期間が長いほど、ライト層が情報に接触するチャンスが増えます。逆に言うと特典が揃わないまま、さらに情報の出ている期間が短いと、そういった層を取りこぼしている可能性もあるのではないでしょうか。ここに商品としての価値、特典としての価値、話題を共有する価値などを高められれば、係数に応じてさらに売上が伸びると思います」

メーカーでは若いメーカーの活躍が目立った。
「昨年前半は『まいてつ』のLoseや『ワガママハイスペック』のまどそふと、『ノラと皇女と野良猫ハート』のHARUKAZEといった、まだ数作品しか発売していない、若いブランドの活躍が目立ちました。後半も新ブランド・RASKの『Re:LieF ~親愛なるあなたへ~』は印象に残っていますね。パッケージの作り方やCGの塗りも、既存の内容にこだわらない作りで。一時期、新ブランドといっても同じ人が名前を変えて……というのが多かったんですけど、若いクリエイターによる若いブランドが増えてきたのは、とても良いことだと思います」(大澤氏)
BugBugの読者からはこれらのタイトル、そして前段落で触れていたオーガスト・ゆずソフト、そしてSAGA PLANETS、ぱれっとクオリア等のブランドが人気だったとのこと。

また、新ブランドながら複数で話題に上ったのがWhitePowderの『LAMUNATION!』。
「開発者の積極的な活動もあり、発売前からあちこちで話題になっていました。今の萌えゲーにはない斬新な設定や独特の雰囲気のある作品で、知名度で苦労する新ブランドにも拘わらず、予想以上に売れたんです。最近はユーザーが保守的と言いますか遊びやすい内容、気軽に楽しめる商品を求めていると、色んな関係者からお聞きしますし、実際そうなんだろうとは思いますが、一方でこういった変わった作品が出てくると、すぐに手に取るユーザーが一定数いるんだなと。裏腹なマーケットの気持ちが垣間見えたような気がしましたね」(藤原氏)
 

 新作数減少とミドルプライス増加は リスク分散とユーザーの懐具合を反映か

弊紙・GameHeadlineの制作は6月から。PCPRESS時代のようなデータは揃っていないため、正式な数値ではないと前置きしての話題だが、記事を制作しながら感じていた点、「新作数は減少しているのでは?」、また「ミドルプライスの商品が増えているのでは?」といった質問をなげかけてみた。

「ソフ倫のデータを見ても、新作数は減っていますね。メーカーの数が減っています。その代わり一本辺りの平均販売本数はあまり落ちていません。つまり採算がとれない作品は開発しなくなった傾向がある訳です。ミドルプライスについては、ソフ倫の区分が5000円以上で別れるので明確なデータを持っているわけではありませんが、今までフルプライスだった商品のうち、大作感のあるものは9800円や1万円超えの値段になっている。一方でそうでない作品は値段も下げ、ボリュームも若干減らして、といった流れがあるのではないかと考えます」(鈴木氏)
「弊社の扱うタイトルではミドルプライスの増加は見受けられませんが、増えているのであれば、開発期間を短縮して商品を出すサイクルを早くする流れがあるのかもしれませんね。フルプライスはリスクが高くなっていますから。他業界コンテンツとの相対的な価格というのもありますし、ミドルプライスの商品を販売することで、どんな結果になるのかをメーカーが前向きに挑戦しているのであれば、悪くない動きだと思います」(若月氏)

開発リスクの問題から、ミドルプライス・低価格が増加したのではないか、とのこと。また、ユーザーの懐具合も問題だ。
「タイトル数については、弊紙はエロメインのカタログ誌なので、低価格で毎月のようにリリースしているメーカーも多いので、紙面作りが難しいとかはないです。ミドルプライスが増えたのは、やはりユーザーの懐具合を考えてでは。低価格ソフトを制作するメーカーも増えていますし。先ほどお話した若いメーカー以外でも、中堅メーカーが堅実なリリースを行っているのを見ると、もう少し数字は伸びてもいいのにと思うのですが、やはり今は“もう一本ついで買い”といった余裕はないんだろうなと感じます」(大澤氏)

そして仮にミドルプライスが増えるのであれば、「そこに業界として知恵を絞る機会が生まれるのでは」との意見も出た。
「もしミドルプライスが増えていくのであれば、新しい形を業界全体で考えるべきでしょう。今の仕組みは8800円の価格に合わせて、販管費や特典などを決めているわけです。それが例えば6800円を中心としたとき、この価格でどう売っていくのか。新しい特典はないのか。皆で考える土壌がほしいですね」(藤原氏)
 

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