昨年末の『CLANNAD』のヒットや、クラウドファンディングを使っての開発が決まった『マブラヴ』『グリザイア』シリーズ等、話題になりつつある美少女ゲームの海外展開。近年続く少子化は業界に大いに影響を与えており、海外に販路を求めるのは、今後の展望として十分に考えられる。【前編】ではこれまでの海外展開の歴史、ローカライズを進める会社、販路としてのsteamについて紹介する。


 初の国内法人、かつ今も続くMangaGamer

昨年末に販売された『CLANNAD』。年末、海外の大作が並ぶsteamランキングの上位に入り、話題となった。

Keyの『CLANNAD』やフロントウイングの『グリザイア』シリーズ等、話題が増えてきた美少女ゲームの海外展開だが、ローカライズ(ある国を対象に作られた製品を、外国でも使用できるように、その外国の言語に対応させること)し販売する動きは、以前から行われてきた。2000年前半には『VIPER』(ソニア)シリーズが海外展開、他にも海外市場を模索するメーカーは存在していた。ただ、それらは"単発"での動きが多く、また海外と取引をするノウハウも不足していたため、自然消滅するケースがほとんど。海外の会社が版権を買い取り、18禁シーンだけを抜いて翻訳も適当に販売。商品の責任は誰が管理するのか、ソフトを提供したメーカーにもわからないことも少なくなかったようだ。

今も続く、国内メーカーによる展開は、2007年に始まった日本アニメコンテンツ株式会社が運営する「MangaGamer」が最初。設立したのはOVERDRIVEの代表でもある竹内氏だ。
「個人的に海外のアニメ&ゲーム系イベントには良く行ってるんですけど、昔から現地にガチなエロゲーマーがいるんですよ。海外では売ってないので来日して購入、パッケージは上手く処理して持ち帰っていたらしいですけど。彼らとコンタクトをとるようになって、可能性を感じたのがきっかけですね。そして2006年くらいですか、当時はまだ美少女ゲーム市場が好調だった時期ですが、将来を考えるとこれが続くとは思えなかったんですね。今のうちに海外での販売も考えてみるべきだと、いくつかのメーカーにも協力いただいて、始めたのがMangaGamerです」

初期ラインナップにはOVERDRIVEを始め、ネクストン、Navel、サーカス等が並ぶ。2007年にオランダに「MangaGamer」のサーバを立てダウンロード販売を開始。18禁ゲームもラインナップにあるが、決済はクレジットなので未成年は購入できない仕組みはクリアされている。ただ、最初はかなり苦戦したようだ。

「最初は散々でしたね。翻訳のクオリティも酷かったし、認知度もほとんどない。知ってもらうにために色んなことやりましたよ。アフィリエイトやったり海外の有名ブロガーに紹介してもらったり。海外のイベントも大きなものは全て参加しました。体験版を配布して美少女ゲームの遊び方を教えたり、日本からアーティストを呼んで盛り上げたり」

近年は年間10本程度をリリースと安定。MangaGamerでは18禁タイトルも基本的にそのまま販売、steamには一般向けの作品を展開している。

「翻訳スタッフの体制も整い販売本数も一定レベルに到達し、"なんとかなりそう"と思えるようになったのは最近のことです」(日本アニメコンテンツ株式会社開発部長・堀田氏)

なお、海外展開に明るい兆しが見えたのは「steamの存在が大きかった」と竹内氏・堀田氏は口を揃えるのだが、steamについては後ほど記述する。

 昨年に国内法人を設立したSekai Project

4月に発売されたばかりの『ワガママハイスペック』も英語版の制作が決定。このような早さは珍しい。

steamで販売される美少女ゲーム系のタイトルを見ていくと目立つパブリッシャーがMangaGamer、そしてSekai Projectだ。2007年に非公式に翻訳するファングループとしてスタート。扱っているタイトルは同人(インディーズ)系が多く、シリーズ累計が50万本を突破して話題となった同人ゲーム『ねこパラ』(NEKO WORKs)もSekai Projectがパブリッシャーを担当している。本社はアメリカで、昨年Sekai Projectが展開した『CLANNAD』や『グリザイア』も本社のプロジェクトだが、2015年には日本法人を設立。より積極的な活動を行うようになった。その内容について版権担当の木村氏にお話を伺った。

「法人は我々が、同人については本社の扱いが多いですね。元々インディーズを盛り上げたいという意図があったようですし、商業だと商習慣の違いからそれぞれに言い分も出てくるのですが、同人だと情熱だけでなんとかやれるみたいで。あとボリューム的に開発がしやすいんですよ。商業の美少女ゲームだとテキスト量も多く、時間がかかるんです」

日本法人ができたことで発表されるタイトルも増えてきたが、『まいてつ』(Lose)『ワガママハイスペック』(まどそふと)と、今年発売されたばかりの作品もローカライズを発表。国内での実績・評価がある程度定まったタイトルが展開されることが多いだけに、このセレクトは珍しい。

「個人的にですが、過去作だけでは未来がないんじゃないかと考えています。今、国内で売れているものを、できるだけ早く海外展開したい。難しいのはわかっていますが、同時リリースができるようになれば、海外でのブランド価値も上がっていくと思います。まどそふとさんやLoseさんは若く、これからのブランドです。プッシュしていきたいですね」

なお、まどそふとには昨年夏、Loseには今年1月に打診があった、とのこと。
「『ワガママハイスペック』を発表して間もないころです。Sekai Projectの方とは知り合いで、アニメ展開の話題もあったので、話を進めやすかったのかなと思います。国内・海外問わずに遊んでもらえるのは嬉しいですね」(まどそふと代表・アルケ氏)

「元々、18禁要素はストーリーと分離しているので作りやすいのかなと。海外については、話を聞かせてもらった程度ですが、有力な市場と感じます」(Lose代表・tO氏)

 自社で翻訳を進めるメーカーも登場

社内に海外スタッフを揃えるフロントウイング。最新作『Corona Blossom』は日本語版・英語版が同時発売。

MangaGamerやSekai Projectはメーカーに海外展開を打診、翻訳し販売する会社だが、メーカーが独自で翻訳を進めるケースも出てきた。冒頭でも紹介した『CLANNAD』のkeyブランド擁するビジュアルアーツがその一つ。

「10年くらいたちますけど、海外のファンが自力で翻訳しているのはずっと見ていて。それを「けしからん」と言うか「ありがとう」と言うか。ビジュアルノベルは日本独特の文化ですけど、それが世界に普及する可能性が、若干でも増えればと考えました。正式に販売することも検討したのですが、各国の倫理問題もわからなかったし、パッケージでの販売は難しい。そんな状況があるなかでsteamが現れて、Sekai Projectが提案を持ちかけてきた。渡りに船と始めましたね。ただ1年くらい前に外人スタッフも入れましたけど、彼は翻訳担当ではありません。おかしい表現はないかとチェックはできますけどね。海外には日本語ネイティブな人が集まっているチームがあって、そこと開発を進めています。一度会社に来てもらったんですけど凄かったですよ、国が全部違いましたから。トルコ人とかスウェーデン人とか、ネットで繋がっているからこそですよね」(ビジュアルアーツ代表取締役・馬場氏)

『グリザイア』シリーズのフロントウイングは、さらに踏み込んだ体制をとっている。

「2014年の末くらいにSekai Projectからの話があって海外展開を意識しましたが、以前にも売れていた作品があり、案としてはもっていました。海外のスタッフを雇ったのが1年くらい前ですかね。外部に頼るのではなく自社で作ることを選んだのは、何でも自分でやりたがる性格と、国内市場が行き詰るなかでシェアの大きい海外市場を他人に任せたくない気持ち、後はちょっとなめていたところもありますかね(笑)。大変だろうとは思っていましたけど、想像以上でした。現在、社内にはアメリカ、イギリス、オランダ、イタリア、フランス人がいて、今は中国での展開を検討中なのでそのスタッフを探しています。日本人スタッフも入れると10人くらいは海外事業に関わっていますね。自分の仕事も3~40%は海外ですよ」(フロントウイング代表取締役・山川氏)

またコンシューマメーカーからもAVG系の海外展開を始めるブランドが出てきた。AVGの開発やPCゲームのコンシューマ移植を手がけている有限会社・レジスタだ。

「以前はまったく売れるとは思っていなかったのですが、DSで発売された『極限脱出 9時間9人9の扉』(スパイク・2009年発売)が海外でヒットしたことを聞きまして。作風的に弊社が得意とする内容だったので、もしかしたら可能性はあるのかなと考えていました。その後、今は社員でもあるジョン・フーバーが、ウチの中澤(AVG『infinity』シリーズ等を手がける人気クリエイター)のファンで、『ルートダブル』(2012年発売)の海外版を出したいとfacebookに連絡してきた。面識もないので最初は驚いたそうですけど、中澤の知り合いにブラジル人がいて、彼曰くフーバーは"日本のゲームにも詳しくて翻訳もできる優秀な人だよ"と。その経緯を社内で聞いて検討し、本作はヴューズさんとの共同版権なので相談しにいき、ぜひやりましょうという話になりました。販売して、ある程度いけるという手ごたえもありましたし、社内の体制もできたので、AVGのローカライズ事業を始めた訳です。現在、ある著名タイトルを進めていまして、そろそろ発表できると思いますよ。また過去の自社タイトルも機会があればローカライズしていきたいですね」(プロデューサー・細田氏)